2012年2月5日日曜日

双子の木。

これは,昔々,まだ動物や植物が
人間の言葉を話せたときのお話。



たくさんの動物や植物でにぎわう大草原。

そこに,双子の木が仲良く並んで,
大地に大きな木陰を作っていました。

彼らは,大草原に住む動物たちが大好きで,
動物たちも,その双子の木が大好きでした。

双子の木は,みんなに喜んでもらうために,
美味しい美味しい果実をたくさん実らせました。

「みんなに喜んでもらえるね。みんなの笑顔がみられるね。」

双子の木は動物の喜ぶ顔が,何よりも大好きなのでした。



ある日,日差しが強い日のことでした。

この付近では見かけないサルの群れが双子の木の前に現れ,
せっかく実らせた美味しい果実を,すべて持って行ってしまいました。

兄の木「ああ,果実が無くなってしまった。果実が無いのでは,
・・・・・・もう,動物たちの笑顔は見られない。悲しいよ。」

弟の木「果実はなくなったけど,まだ葉が残ってるよ。
・・・・・・季節ごとに色が変わる葉を見て,きっと動物たちは喜んでくれるよ。」



動物たちは,季節ごとに変わる色とりどりの葉が大好きでした。
風に揺れる美しい葉は,1日中見ていても飽きることはありません。


ある日,風が強い日のことでした。

今まで見たことも聞いたこともないような
強い強い風が,美しい葉をすべて持って行ってしまいました。


兄の木「ああ,葉が無くなってしまった。葉が無いのでは,
・・・・・・もう,動物たちの笑顔は見られない。悲しいよ。」

弟の木「葉はなくなったけど,まだ枝が残ってるよ。
・・・・・・枝にとまるきれいな鳥たちを見て,きっと動物たちは喜んでくれるよ。」





動物たちは,羽を休めるために,双子の木にとまる鳥たちが大好きでした。
青に赤に黄色に緑。美しい鳥は,1日中見ていても飽きることはありません。


ある日,木枯らしが吹く寒い日のことでした。

寒さをしのぐために,火にくべる薪(まき)を探しに人間が現れました。
人間が,鳥がとまる枝をすべて持って行ってしまいました。


兄の木「ああ,枝が無くなってしまった。枝が無いのでは,
・・・・・・もう,動物たちの笑顔は見られない。悲しいよ。」

弟の木「枝はなくなったけど,まだ幹(みき)が残ってるよ。
・・・・・・幹に集まるかっこいい虫たちを見て,
・・・・・・きっと動物たちは喜んでくれるよ。」





動物たちは,蜜を食べるために,双子の木に集まる虫たちが大好きでした。
カミキリムシにクワガタムシにカブトムシ。
かっこいい虫たちは,1日中見ていても飽きることはありません。


ある日,うららかな春の日差しが指す暖かな日のことでした。

家を作るために,大きな木材を探しに人間が現れました。
人間が,虫が集まる幹を切り倒して持って行ってしまいました。


兄の木「ああ,幹が無くなってしまった。幹が無いのでは,
・・・・・・もう,動物たちの笑顔は見られない。悲しいよ。」

弟の木「幹はなくなったけど,まだ切り株が残ってるよ。
・・・・・・切り株で休めるから嬉しいよって,きっと動物たちは喜んでくれるよ。」







双子の木は,同じ人生を歩みました。

しかし,同じ人生なのに,
二人の,それぞれの人生の見え方は
全く別なものだったようです。



「もうない」と考えるのか。
「まだある」と考えるのか。


「ないからできない」と考えるのか。
「あるもので何ができるのか」と考えるのか。




双子の木は,同じ人生を歩みました。

しかし,同じ人生なのに,
二人の,それぞれの人生の見え方は
全く別なものだったようです。


おしまい。